撮影クルー
サラ・マブローク
監督/ジャーナリズムと映像制作の学位を持ち、ヨーロッパと中東のニュース報道に10年携わる。イラク戦争、レバノン戦争、イスラエルとパレスチナの衝突、アラブの春、イランに関する取材を行い、レポーター、プロデューサー、スピーカー、カメラマン、現場マネージャー、記者、テレビやラジオ出演の経験を重ねる。主なクライアントはAP通信、BBC、CNN、ガンマ、フランス2 4、アバカ、アジェンシア、EFE、ZDF等。米国ワシントンD.C.育ち。英語、アラビア語、ドイツ語、フランス語、スペイン語を流暢に話す。
撮影エピソード
このドキュメンタリー映画『ザ・フード・キュア』の登場人物で最初に会ったのはマリーでした。場所はメキシコのゲルソン・クリニックでした。他の末期がんの患者たちと同じく、彼女も…ニンジンで治療されていました。本当にニンジンで。同時に毎日10kg近い野菜と果物も食べていました。
クリニックの栄養療法は1世紀近く前にドイツ人医師マックス・ゲルソンが開発したものでした。その食事は身体が備える免疫系を強化し回復させ、自然にがん細胞を殺す力を再活性化させると説明されています。
当初、私はジャーナリストとして、悪評高いメキシコのがん治療ビジネスの実態をレポートしようと考えていました。アメリカとメキシコの国境付近にはがんの代替療法クリニックが乱立し、希望を失ったアメリカ人患者を待ち構えています。そこで行われているがん治療は効果が不確かで、一度入院したら二度と自宅に戻れないと噂する人もいるからです。
しかし、ゲルソン・クリニックにいた患者たちの多くは、すでに化学療法や放射線治療を何年も受けてきた人たちで、ここでの治療が彼らにとって最後の希望でした。命にかかわる選択を迫られた彼らは、どのようにしてこのような究極の決断を下すことになったのか、私はそれを見い出したいと思いました。そして、患者たちを治療する医師にも話を聞きたいと思いました。末期がんの患者たちは心の底から野菜だけで自分のがんを覆せると信じていました。本当に。ですから、そこには説得力のある、または、科学的な説明があるのだろうかと思ったのです。
さまざまな組織にも取材を申し込みました。米国立がん研究所(NCI)や米国がん協会(ACS)といったがんの権威筋は、治療効果を示す科学研究が無いので代替療法は米国食品医薬品局(FDA)が承認していないと主張しています。
一方、代替療法の医師たちは、代替療法で多くの患者が治っていても製薬会社中心で回る医療産業界は利益を得られない代替療法に関心が無いので研究もしないのだと主張しています。実際、FDA未承認の代替療法で治療したがん患者の生存率を調べた統計や信頼できるデータはありません。あるのは多くの逸話です。奇跡的に「治った」人の逸話と、メキシコのクリニックへ行ってすぐに亡くなった人の逸話、それだけです。
私は限られた時間と不確かな情報源でよくあるレポートを作るのではなく、この問題をもっと深く掘り下げたいと思いました。当初の企画は取り下げ、実際の患者たちをカメラで記録し続けることにしました。6人の患者に起るできごとがそのまま科学的な証明になるわけではありませんが、これから同じ選択をする他の多くの患者たちに将来起こるかもしれない出来事を想像する材料にはなるはずです。こうして異なる国々に住む6人の患者たちを追う合計7年にもおよぶ旅が始まりました。
マリーは聡明な44歳の整骨医で夫とともに4人の子ども育てていました。異なる2種類の乳がんを診断され、その一つは進行スピードが早いトリプルネガティブ乳がんでした。メキシコのクリニックに来るまでの数週間は人生でも最悪の日々だった、と話してくれました。
彼女のがんの主治医は集中して行う化学療法を処方し、その副作用についてはインターネットで調べないようにと警告したそうです。 マリーはそれに従わず、自分の化学療法について調べました。治癒率の低さ、臓器に対するダメージを知り、その治療は死と同じに思えました。彼女は化学療法の予約をキャンセルしてメキシコへ行くことを決断しました。
私は彼女が滞在するメキシコのクリニック、そしてモントリオールの自宅を、翌年も含めて定期的に訪ねました。化学療法や放射線治療を続けることに比べれば、ジュースを飲みサラダを作る方が簡単だと思いましたが、マリーや映画に登場する他の主人公たちはいつも大変そうでした。
患者たちは、以前の生活で楽しみ だったことのほとんどを取り上げられてしまったように感じていました。旅行、友達とコーヒーを飲むこ と、ディナーに出かけること、映画を見ながらワインを楽しむことなど、毎日の暮らしに喜びをもたらす ことのすべてが2年間の治療では厳しく禁止されるのです。我が家にいながら檻に閉じ込められているように感じていました。
自分の健康を「自らの手に取り戻す」のは、簡単ではないことがわかりました。ジュース、特別な食事、 サプリメント、浣腸の準備をしながら、同時に家族に気を配り、仕事をし、毎日の暮らしに必要なことを やりくりする、それはほとんど不可能に近いことなのです。主治医が推奨する治療、友人たちのあたたか な助言、家族や親戚の心配や意見に抗うのも大変なことです。何より、社会的な交流には食べ物や飲み物 が付いてきます。そこに参加できないことは、社会からの疎外感が強くなるのです。
私はカメラを回し続けた7年の間に、マリーと他の患者たちに対して深い敬意を抱くようになりました。 一般的な医学に背を向けてホリスティックな治療を選んだことは正しかったのか、それとも間違った決断 だったのかということは別にしても、とても勇敢で孤高な存在であるのは確かだからです。
この映画の主人公たちは強く、美しく、そして一緒にいて楽しい人たちばかりです。私は、がんや死をテーマにした映画を作っていると感じたことは一度もありませんでした。彼らがジュース搾りに格闘し、 親しい人たちと過ごし、病院の検査に一喜一憂し、仲間たちと笑い、子どもたちに教え、素晴らしい食事を作り、人生と闘っている、ただそれを記録し続けた日々でした。
私たちの人生は選択の連続であることを患者たちは教えてくれました。彼らとともに過ごした時間が、ぼんやりと感じていたことを確信に変えてくれました。つまり、これは語り尽くすことなどできないストーリーだ、ということです。映画を見た人々は、毎日の食事やがんの治療法、現代医学の治療法など、あらゆるものに対する見方が変わるかもしれません。
サラ・マブローク、2018年
映画『ザ・フード・キュア』撮影クルー
アレクサンダー・ワドー
プロデューサー/ベルリンに拠点を置く映像制作会社クロモソムフィルム代表。作品に、『コーヒーをめぐる冒険』や『White Shadow』(製作責任者ライアン・ゴスリング)があり50以上の映画賞を世界で受賞している。ドイツのアカデミー賞、ヨーロッパ映画賞、ヴェネツィア映画祭では権威あるディノ・デ・ラウレンティス賞を受賞。多くの作品は世界30カ国以上で配信されている。
シベラ・スティーブンス
プロデューサー/演劇とメディアをチャールズ・スタート大学で学び、芸術とクリエイティブ分野で13年経験を積む。演劇、映画、テレビの仕事を国際的にこなしている。近年携わった作品に『Jim Knopf und Lukas der Lokomotivführer』や『Black Panther』がある。
フレデリック・ラファルグ
撮影監督/20年以上の経験を持ち受賞歴のある写真家でカメラマン。シリアなどの中東紛争に関する作品でもっともよく知られる。
トーマス・ケラー
編集/ブリストルで映画を学び、15年間クリエイティブ分野で活躍。ドキュメンタリー映画の編集が専門で『The East Complex』、 『The Good American』、『Out in East Berlin』、『Colonial Education』の編集を担当。ベルリン在住。
クリストファー・ステュワード
監修/ドキュメンタリー映画製作とコンサルタントとして20年以上の経験がある。過去最高の興行収益を上げカンヌ映画祭でパルムドール賞を受賞したドキュメンタリー映画『華氏911』、放送映画批評家協会賞を受賞した『シッコ』などが作品として知られる。『Fat, Sick & Nearly Dead, Wake Up, and Fire in the Blood』の監修も行っている。
キラ・ジマーマン
アウトリーチ・コーディネーター/ワシントンD.C.の大学でパブリック・リレーションと映像制作を学びドキュメンタリーのプロモーション業に従事。社会に変化を与える作品に熱心に携わる。ソーシャルメディア、マーケティング、コミュニティーでの経験が豊富。イスラエルのテルアビブ在住。